「頭がいいのも考え物だ。」
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人間生まれた時は平等だ、何てことはあり得ない。
どういう形であれ違いは存在する。
だからなんだという話なんだが。
うちの家系はエリート揃い、
父は教授でじいさんは士(さむらい)業。
母方の祖母は天皇から勲一等。
そんな俺が変な事を出来るはずもなく。
幼いころからの重圧。
みんなは俺を天才だと言っていた。
ピアノを習えば、
先生が教える喜びを覚えるほどに、俺は意図も簡単に習得していた。
まだこの頃はよかった、まだ楽しかった。
問題はこれからだ。
中学受験で狙っていた学校に落ちた。
心に残ったのはイラつきだった。
悔しい?いや、むかついたね。
だから、高校受験はその系列の学校を滑り止めにしてやった。
まぁ、何てことない俺は勉強をすれば何でもできる。
そう信じて已まなかった、俺は諦めるって事をしなかった。
高校生活は普通に勉強していた。
行きたい大学があったから、そうどうしてもだ。
俺は完璧主義のテンプレートのような人間だ。
受かるだろうと高を括ってたら落ちちゃった。
普通ならどう考えるんだろうか?
滑り止めで諦めるんだろうか?
そんな事俺の頭の中には毛頭なかったけどな。
浪人しても行きたい大学があった。
一般人には理解出来ないコダワリ。
結局のところ一浪だけで受かったわけだ。
まぁ、大学時代は楽しかったよ。
理論をこねくり回すのが楽しかった。
実験はあんまりだったけどな。
さてここで問題だ。
ここまで出来てしまう人を人はなんて呼ぶんだろう?
やっぱり天才って言葉を使うんじゃないだろうか?
だけど、俺はやっぱり嫌だね。
秀才って言葉を使ってもらいたいもんだ。
実際は天才なのかもしれない。
だけど、努力もしてきてるんだ。
それを評価されないのは寂しいもんなだぜ?
大学でそれなりの事をしてきた。
論文も評価され、特許も取った。
このまま博士号を取り箔を付けたかった。
そんな時だ。
なんか知らんが、会社の研究室に送られた。
まぁ、研究できるならいいかと考えたが、そうは問屋が卸さない。
上からの不条理な言葉。
「君は天才なんだから、これくらい簡単だろう?」
そんなバカな話があるか?
次々と課せられる実績。
研究の世界でそんな簡単に実績が積めると思ってるんだろうか?
俺には理解しがたかった。
だけど、俺の完璧主義がそれを出来てしまう。
いや、出来るように自分の精神を削ってこなしてしまった。
これが失敗だった。
俺は精神を削ることによって評価は得たが、俺の心はボロボロだった。
当然、仕事を続ける事が難しくなり。
退職を願い出た。
研究は好きだった。
未知の世界はこれほどまでに俺を興奮させてくれる。
特にやりたかったのは宇宙物理学。
宇宙はロマンだった。
まぁ、そんな研究できなかったんだけどな。
気づけば、研究からは遠のき今まで理系の事ばかりやっていた俺だったが。
あらまぁ不思議いつのまにか文系の資格を取る準備をしているじゃないか。
何がどうなってそうなったのかはわからんが。
その時はそれにしか目が行かなかった。
それからは勉強ばかりしていた。
難しい資格だったからね。
それでも最終的には受かってしまうんだから、
自分はほかの人間とは違うんだなと。
そう思わずにはいられなかった。
今では順風満帆に仕事をしているが。
やはり同業者からも天才呼ばわりされる。
それが嫌だとは思わないが、
結果だけを見て人を評価するのは勘弁してほしい。
たしかに、天才ってのは存在する。
俺にもこいつには絶対に勝てないと思う奴もいた。
俺は天才では無い。
たしかに普通の人とは少し頭の構造が違うと思うが。
何もしなくて何でもできる人間なんて存在しない。
だから俺は、何でもできるのではない。
何とかしてしまう人間なんだと。
完璧主義のテンプレートな俺は神経を尖らす。
それは身を削る行為なのだと。
それを知らない人間に俺の事を語ってほしくはないな。
人間努力をすればなんとかなるなんて嘘っぱちだ。
運よく俺は才能を持って努力したからここまで来れた。
他人から見れば何でもできる天才だと見られる。
たしかにそれに対して恍惚を得る事も出来るのだが。
本当の自分を知ってもらいたい。
頑張ってる自分を評価してもらいたい。
そんな思いが今も昔も心の奥底に眠っている。