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ラバロとクラエス   原作:ガンスリンガーガール6話

 

 

 

ラバロ:退役した軍人、クラエスの教官役

クラエス:公社に洗脳されている少女、ラバロの部下

 

 

 

 

ラバロ♂ :


クラエス♀:


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ラバロM「『自分にはあなたの復帰に協力ができます』
      足を悪くして軍を退役した俺にとって、この誘惑に勝つことが出来なかった。
      これはそんな俺とパートナーである『少女』の話だ」

 

▼演習場


■銃声のなる音

 

ラバロ 「ようやく当たったか。
     7ヤードで必中できるようになるまで帰ってくるな。
     俺は先に戻る、いいなクラエス」

 

▼食堂


■雨音

 

ラバロ 「ったく、こんな仕事とはきいてなかったぞ。
     これじゃ、ただの小学校の教師だ。
     ……雨が強くなってきたな
     あれから大体5時間ほどたったか、流石に自分で戻っているだろ……。
     まさか……な。」

 

▼演習場


■雨音と銃声の音

 

ラバロ 「クラエス……」


クラエス「ラバロさん……すみません、まだ必中とは程遠くて……」


ラバロ 「馬鹿が。一日中撃ち続けて上達するものか……さっさと帰ってシャワーでも浴びて来い」

 

▼自室


■過去のクラエスの写真を見ながら

 

ラバロ 「これが素体の頃の写真か。かわいい衣装にメガネをかけた、ただの少女だな。
     それがあんな化け物になるとは……」


クラエス「ラバロさん……あの……」


ラバロM「そこには扉を半分開けたクラエスが立っていた。俺は急いで写真を隠す」


ラバロ 「どうしたクラエス。寮を抜けてきたのか?」


クラエス「公社の方に、シャワーを浴びたら部屋を訪ねろと言われたのですが」


ラバロ 「あいつらが? 聞いてないな。まぁいい、とにかく入って来い」

 

(間)

 

クラエス「たくさんありますね」


ラバロ 「何がだ?」


クラエス「本です」


ラバロ 「ああ……そんな風には見えないだろうが、俺達のような職業の人間はよく本を読むんだ。
     教養や好奇心の無い奴は良い兵士になれないからな」


クラエス「どんな本を読むのですか?」


ラバロ 「今は、家庭で出来る野菜の育て方の本を読んでいる。
     野菜型の宇宙人が攻めてきた時役にたつようにな
     ……お前は本を読まないのか?
     渡された資料の中ではいつも……いや、なんでもない」


クラエス「良い兵士になるのに必要なら、私も野菜の本を読みます」


ラバロ 「そうか」

 

(間)

 

ラバロ 「射撃の練習はしばらく中止だ。明日は朝から出かけるぞ」

 

(間)

 

ラバロM「次の日俺達は近くにある湖にやってきた」


クラエス「休日じゃないのに……いいのですか?」


ラバロ 「ああ、これも仕事の内らしい」


クラエス「……?これは?」

 

■竿を渡される

 

ラバロ 「釣りの仕方くらいは知ってるだろ?」


クラエス「ええ、知識では」


ラバロ 「餌はつけてやったから、竿のしなりを使って下手(したて)でそっと放ってみろ」

 

■ヒュン…ポチャン

 

クラエス「投げましたけど……」


ラバロ 「そして座って魚を待つ」


クラエス「……」

 

(間)

 

ラバロ 「退屈か? 子供の頃、父とした釣りは案外退屈なものだった。
     あの頃は無為に時を過ごす喜びなんて知らなかったしな」


クラエス「私は退屈していません。
     ただ、こんな境遇の私でもこんな体験ができるんだと……」


ラバロ 「仕事の為に連れて来たんだ。実際のところ、お前には興味がない。
     興味があるのは軍警察への復帰だけだ」


クラエス「……脚のこと、聞いてもいいですか?」


ラバロ 「詰まらん話だ。軍警察時代に小銃の暴発事故で脚を飛ばされた。
     公社で3年働けば、軍警察への復帰を助ける。
     それが公社側との約束だ」


クラエス「でしたら、それまでの間私があなたの脚になります」


ラバロ 「よしてくれ。 さっきの話を聞いてなかったのか?
     ……ほら、手元がお留守になってるぞ!」


クラエス「あっ!?」


ラバロ 「早くあげろっ!」


クラエス「ひゃっ!?」

 

(間)

 

ラバロM「それから、俺達は何度か湖に足を運んだ。ロンバルディア、ヴェネト、ビエモンテ……」


クラエスM「公社での私達はいつも無口で、お互い教官と教え子の役割を忠実にこなしたが
      何故かいつも湖では会話が進んだ」


ラバロM「それが二人の暗黙のルールだったのだ」

 

(間)

 

▼市内地下鉄入り口

 

ラバロ 「今日はちょっとした実地訓練だ……正当防衛以外では抜くなよ。
     地下鉄のチンピラを騒がれずにのせないようじゃ、本番なんてとてもできないからな」


クラエス「頑張ります」

 

(間)

 

■銃声が二発

 

ラバロ 「こちらラバロ、クラエスが撃った。騒ぎが起きないか見張っておいてくれ」

 

(間)

 

クラエス「ラバロさん……騒がれないようにと思ったのですが……」


ラバロ 「!! 黙っていろ! すぐに止血する!」


クラエス「すいません……」


ラバロ 「この馬鹿が! 警察活動じゃ、射撃の腕より抜くタイミングが重要だと教えただろ!!
     ナイフの間合いに入ってから銃を使うと決めても遅いんだ。
     今度撃つ時はためらうなよ……」


ラバロ 「はい……」

 

(間)

 

▼射撃場


■銃声連発

 

ラバロ 「今日こそは7ヤードの距離を確実に当てて来い」


クラエス「はい」


ラバロ 「外と違って射撃場内では風も吹かないから当てやすいだろう」


クラエス「ええ、頑張ってみます」

 

■クラエスではない少女の持つ銃がガチャコンとジャムる音(薬莢が詰まる音)

 

ラバロ 「!! 貴様っ!! 覗き込むなっ! 死にたいのかっ!!」


クラエスM「あんなラバロさんの顔を見たのは初めてだった。
      同じ公社の少女が銃口を覗き込む姿を見たとたん、
      鬼の形相で攻め立てたのだから。
      そして、その少女の『パートナー』が止めに入ると一喝」


ラバロ 「黙れっ!! ろくに銃も扱えない奴をレンジに入れやがって!!
     SIG(しぐ)だからジャムらないと油断したか!」


クラエス「ラバロさんっ!後ろっ!!」

 

■銃を構える音 ガチャ

 

ラバロ 「なに!?」


クラエス「ラバロさんは殺させないっ!」


ラバロ 「クラエスっ!!」

 

■銃声音


▼病室

 

ラバロ 「あの時、当然のように俺を庇おうとしてこれか……『条件付け』とは恐ろしいものだな」


ラバロM「少女らは条件付けによって、記憶を操作、捏造されている。
      自分のパートナーの為なら、己が死んでもかまわない、誰を殺してもかまわないと言うほどに、
      強力な催眠術のようなものだそうだ。


      今回その催眠術による行動予想が公社の考える範囲を超えてしまっていたらしい。
      たしかに、俺を庇わなければ、今頃俺がベッドの上で寝ていたのだろう。


      だが、実際ベッドの眠っているのはクラエスだ。
      ナイフで刺されようとも、銃で撃たれようともものともしない少女が今ベッドで眠っている。


      それは条件付けを再度行うという証でもあった。薬や脳内を弄繰り回して……」


      『こんな事を繰り返せば少女達の寿命が縮むぞ』


      と意見をしたものの、公社から帰ってきた言葉は、


      『義体の実用化の為には仕方ないことでしょう。
       いずれにしろ貴方には関係の無い事です』だった。


      そして公社が根回しすれば、軍警察への復帰は確実だと付け加えられた」

 

▼公社内中庭

 

クラエス「ラバロさん!」


ラバロ 「久しぶりだな、クラエス。今日退院したのか?」


クラエス「貴方を探してたんですっ! 貴方が……貴方が公社を辞めるって噂を聞きました!」


ラバロ 「心配するな。今からちょっと知り合いの記者に会ってくるだけだ……。
     最近の公社のやり方に疑問があるんでな。
     ……ああ、そうだ渡すものがあるんだった。
     一つは俺の宿舎の鍵だ、これからは自由に俺の本を持って言っていい。
     そっちのは、以前お前が使っていたメガネだ、今は必要ないからレンズは交換したがな」


クラエス「どうしてこれを?」


ラバロ 「これまでお前を一人前にしようと鍛えてきたが、最近のお前をみて不安になってきた……」


クラエス「?」


ラバロ 「引き金というのはよく考えて引かなきゃいかん、
     公社がどんな命令を出すにしろ、作戦以外で力を使ってはいかんのだ。
     だから。このメガネをかけてる間はおとなしいクラエスでいて欲しい。
     書き換え可能な命令じゃない『血の通った約束』だ」


ラバロ 「Hai capito?(アイ カピート)」     (訳:わかったか?)


クラエス「Ho capito(オ カピート)」     (訳:わかりました)


ラバロ 「いい子だ」

 

(間)

 

▼寮内

 

クラエス「ラバロさん、遅いな……」

 

■扉を開ける音

 

クラエス「えっ……ラバロさんがひき逃げに……? 即……死……?」

 

■何かが切れる音

 

(間)

 

クラエス「う……ん……寝ちゃってた……?」


クラエスM「私はメガネを掛け立ち上がる。
      部屋を出ると、私と同じくらいの少女が絵を飾ろうとしていた。
      彼女は恥ずかしげも無くパートナーの自慢をしてくる。
      私に欠けた何かを感じさせる会話だった」


クラエス「あ、そうだ。家庭菜園を作ろう。
     ……でも、どうして菜園なんだろう?」


クラエスM「自分でもわからない、なんとなく菜園を作りたくなった。
      そんな事を考えていると、彼女が聞いてきた。『一人で寂しくないの?』って」


クラエス「幸せなおちびちゃん? 私がサミシイかどうかは私が決めるの」


クラエスM「料理をするのも、絵を描く事も、楽器を弾くことも楽しいし、
      ここには読みきれないほどの本がある。
      そして、何より私は無為に時を過ごす喜びを知っている。
      
      それは遠い昔、お父さんか誰かに教えてもらったもの……そんな気がするのだ」

 

 

 

 

 

 

END

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