たった一人の家族
※即興小説を弄ったやつ
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俺には祖母が居る。
幼い頃に両親を事故で亡くし、数年前に祖父を亡くした。
俺にとって最後の家族だ。
昔から祖母は俺にとってうるさくて怖い、そんな存在だった。
手洗いうがいをしなさい!
勉強しなさい!
部屋を掃除しなさい!
そんな事ばっかりだ、いい思い出なんて一つも無い。
そんな祖母が倒れた。
救急車に運ばれ、医師が俺に告げたのは
俺にとって心臓を握られるような告白だった。
癌。
今の時代、不治の病では無くなったものの
すでに転移が進み余命は1年あるか無いかだと言う。
俺の頭は真っ白になり、意識が遠くなる錯覚まで感じる。
俺が祖母の病室に行くと、いろんな管が祖母に繋がっていた。
昔はあんなに怖いと思っていたその姿は弱々しく
あのムカつくほど吊りあがった目は閉じられていた。
今は祖母と一緒に居たい。
そうして、俺の病院通いが始まった。
眠っている祖母を見てるとこう思う
あんなに怖かった祖母はどこへ行ったのだ、と。
数日後、祖母は目を覚ました。
喜んだ俺を見て一言。
「はやく勉強しなさい!」
久しぶりに目を覚ましたのに
最初の一言がそれかよ。
そんな事に驚いていると
祖母はベッドから降りようとしていた。
当然それを医者や看護婦が止めようとするが
頑なにそれを拒否する祖母。
なにが祖母をそこまで無理をさせるのか。
その時の俺にはわからなかった、知る事ができなかった。
俺の制止も医師の制止も聞かず祖母は病院を出てきてしまった。
そんな事があった次の朝、俺が起きると祖母は台所に立ち、朝ごはんを作っている。
無理をするなと俺は言うが。
「子供がそんな生意気な事を言うな!」
と、怒鳴られてしまった。
俺の方が早く病院に戻れと怒ってやりたいところなんだが。
不思議にもそんな生活が続いた。
気づけば受験を終え、大学合格を果たしていた。
合格発表の時、祖母は泣いて喜んでくれた。
俺も少し涙が出たのを覚えている。
あれから5年が経つ、祖母はまだその足で立っていた。
余命1年あるかないか、なんて事を言われたのが嘘のようだ。
とある日、俺に愛する人が出来た。
この人とならやっていける。
この人の為なら死ねる。
そう思えた人だった。
愛する人と学校を卒業したら結婚しよう。
そう伝えると
彼女はそれに応えてくれた。
そんな時、祖母がまた倒れた。
忘れそうになっていた、祖母の命はもうほとんど残っていなかった事に。
あの時と同じように病室で眠っている祖母。
医者が言うには、なぜ今まで生きていたのか不思議なほど体はボロボロだったらしい。
どうしてそんなにがんばってしまったんだ、俺には理解できなかった。
そして、大学を卒業
俺達はすぐに結婚の日取りを決めた。
あの後、少しだけ目を覚ました祖母にお願いされた。
祖母の最初で最後のお願い。
「お前が結婚するところを見たい」
そんな、くだらないお願いだった。
俺が彼女の顔色を窺っていると、
彼女はそれを喜んで了承してくれた。
結婚式当日
タキシードを着た俺、車椅子に座っている祖母。
そんな俺に声をかけてくる。
「家族が出来たね、もう一人ぼっちにならないね」
そんな事を笑顔で言うと祖母は眠ってしまった。
そう、眠ってしまったんだ。
眠った祖母を連れ、式場へ。
彼女と俺が永遠の愛を誓う。
それを眠った祖母が祝福してくれている、そんな気がした。
この日
結婚記念日と共に、祖母の命日になった。
あんなにイヤだった祖母の小言が、こんなに恋しくなるなんて思わなかった。
俺に家族が出来るまで家族で居てくれて。
俺を一人ぼっちにしないようにがんばって生きてくれて。
今の俺なら分かる気がする、祖母ががんばった理由
もし、この人より俺がそっちに行くような事があったら
いつものようにあの吊り上がった目で、俺を叱ってくれ。
今までありがとう『ばあちゃん』。
END